ムサビだからこそできる経験を。学科の枠を越え学生の手でつくり上げる芸術祭

久しぶりに開催制限が解かれる2023年度の芸術祭。展示や模擬店、フリマやパフォーマンスなどたくさんのブースが並び、キャンパス全体がお祭りムードに包まれます。1年の中でも特に多くの学生が参加するこの一大行事を取り仕切るのは「芸祭執行部=芸術祭実行委員会執行部」。その中心で奮闘する委員長と副委員長に、組織の中での役割や運営の魅力を聞きました。

2023年度 武蔵野美術大学芸術祭実行委員会 執行部
委員長 長野 玲さん(クリエイティブイノベーション学科2年)
副委員長 中下大我さん(芸術文化学科2年)


——おふたりが芸術祭実行委員会執行部(以下「執行部」)に参加したきっかけや動機を教えてください。

長野:私はせっかくムサビに入ったので、ここでしかできないことをがんばってみたいと思い、1年生のときに参加しました。執行部内の各部署の紹介動画を見て、オブジェや広報物を含め、芸術祭の全てが学生の手でつくられていることを初めて知ったんです。それで、ここに身を置いていろんなことを吸収したいと思いました。

中下:僕は入学後、友だちに連れられて執行部のオリエンテーションに行き、直感で参加を決めました。執行部に入ったら成長できるんじゃないかという気がしたんです。最初はものづくり系の部署を希望していたのですが、全然違う部署からスタートし、気づいたら副委員長になっていました。

——おふたりとも執行部での活動に可能性を感じたんですね。活動を通して経験を積み、成長していけそうなイメージを持ったのでしょうか?

中下:ここでがっつり成長することを期待していたというよりも、その先でより成長するための種みたいなものを育てられたらと思いました。執行部は基本的に1・2年生で運営している組織なので、ここでの2年間で自分に種を植えつけて、3年生になり別の新しいプロジェクトに参加したときに、そこで花を咲かせられるようになっていたいというイメージでいます。

長野:私はもともと、身近なところに美術に触れる環境がなかったので、入学して「美大にはこんなにいろんな人がいるんだ」と驚きました。特殊な場所だと思ったんです。同じ学科の人とは授業などで関わる機会があるかもしれないけれど、もっといろんな学科の人たちに揉みくちゃにされるような場所で、なにかを得られればいいなと思っていました。

——今年の芸術祭は久しぶりに制限なしでの開催となりそうですが、テーマについて教えてください。

長野:今年のテーマは「Dia de MAUertos(ディア・デ・マウエルトス)」です。メキシコに「Dia de muertos(ディア・デ・ムエルトス)=死者の日」という、先祖の魂を迎える行事があります。それは日本のお盆のようにしみじみと迎えるというよりも、死者のことを楽しく思い出しながら、生者も死者もごちゃ混ぜになって盛り上がろうというお祭りです。今回、どんな芸術祭をつくりたいかを話し合う中で、ムサビの芸術祭は、普段は閉じられたムサビという場所が外に向かって開かれる貴重な機会であること、そして大学と地域の境界線を越えて、また芸術の分野の垣根を越えて外の人が入ってくるというイメージが湧いてきました。それを、死者が帰ってくるという死者の日に重ね合わせて今回のテーマが生まれました。

——執行部の活動は今どのような段階でしょうか。おふたりが担っている役割も教えてください。

長野:執行部は制作系の部署と、展示や出店などで参加する学生をサポートする部署に分かれます。私たちの役割分担としては、私が主に制作系の監修で、副委員長がサポートの部署を統括しています。制作系の部署は、今年のテーマをもとに広報物やオブジェの案をつくり、夏休みから制作に入ります。今は制作物の案が出揃ってきて、それをチェックしている段階です。

中下:こちらも展示や飲食、雑貨、フリマ、イベントなど、かなりたくさんの企画が集まってきています。今年は開催制限がなくなることもあり、選考段階で350件以上の申し込みがありました。特に展示で参加したいという学生が多いですね。それらをムサビという大きなひとつの枠の中にどう収めるかを考え、備品の割り振りや設備の使用許可申請などを行います。

——執行部の活動に参加することで得られた経験や、やりがいだと感じることを教えてください。

長野:本当にいろいろありますが、一番は、本気でものづくりしようとする人を間近で見られることだと思います。みんな、ものをつくることが本当に楽しくて仕方がないんだなと。私は委員長としてつくる人に指示を出したりする役割ですし、クリエイティブイノベーション学科なので、普段からものづくりをしているわけではありません。テーマを決めるときも「イメージしにくいテーマは避けたほうがいいのでは」とか、「制作物をつくりやすいテーマのほうがいいのでは」と考えていましたが、ものづくりをする人たちは口を揃えて「最終的に自分たちがつくっていて楽しいテーマがいい」と言ったんです。そのときに、ものをつくるのが楽しいという感覚を、つくる人たちはこんなにも明確に持っているんだということにハッとしました。高く評価されるものを効率よくつくることも大事かもしれないけれど、そもそもつくること自体が楽しいということや、自分たちの心ゆくままにつくる姿勢をみんなに教えてもらったと感じています。

中下:僕は役割的にはキュレーションという立場です。昨年の来場者アンケートで展示が一番印象に残ったと書いてくれる方が多かったように、やはりムサビの芸術祭は学生の作品を見にくる人がたくさんいます。芸術祭は展示だけではありませんが、それも踏まえてムサビ全体をひとつの展示空間と捉えて、その大きな空間をどうまとめていくかを考えています。まだまだ勉強中ですが、執行部の活動を通してキュレーションする力も身につけていっていると思います。

——それぞれに普段の学びとリンクする部分もありそうですが、この経験は今後の活動にどのように活かされていくと思いますか?

中下:この先、自分が学芸員を目指すかなどはまだ決めていませんが、その道に進むとしたら、こんなに大きな空間をキュレーションしたという経験は気概となるのではないかと思います。また、授業では他学科との共同プロジェクトも多く、執行部の活動でいろいろな学生と話をして得た情報や人とのつながり、コミュニケーション力がそこで活かせるのかなと考えています。

長野:私は、組織を効率的に上手に動かす方法は執行部でなくても学べたかもしれませんが、仕事に対するやりがいや楽しさは、執行部だからこそ見えてきたと思っています。そこには今までなかった効率性や生産性以外の価値があると思えるようになりました。これまでの小・中・高校では、いかに早く正解を叩き出すかということにフォーカスを当てていたことに気づきましたし、ちょっと立ち止まってそうではないものに気づく思考や面白さやにも気づかされました。クリエイティブイノベーション学科では、新しい価値や今までにないことを見つけていくということ学んでいますが、まさに執行部で体感したことと近いのではないかと思います。

——最後に、インタビューを読んで執行部に興味を持った後輩に向けてひと言お願いします。

中下:“空腹感は味方、満腹は敵”だと思っていてほしいです。「もっとここを知りたい」、「自分だったらもっといいものをつくれる」など、勢いを持って自ら邁進してくれる人たちが執行部に集まってくれるといいですね。参加する目的は自分自身にフォーカスしたものでもいいですし、どんどん進んで動いてくれる学生や、自分ももしかしたら……という学生に響いてくれたら嬉しいです。

長野:芸術祭はムサビの人と場所と時間など、本当にいろんなものを目一杯使える数少ないプロジェクトです。自由度が高いが故の苦しさはもちろんありますが、ここでしか得られないやりがいを私は感じています。どの役職についても、芸術祭に向けて準備する中で得られるものは必ずあると思うので、自分だけの視点を持ちつつ、他人と積極的に交わりながら学びを得てほしいです。執行部はそんなことができる場です。


【武蔵野美術大学芸術祭実行委員会 執行部】
武蔵野美術大学で行われる年に一度のビッグイベント「芸術祭」を企画運営する実行委員会。幹部と各部署(イベント部・模擬部・展示部・デザイン部・広報部・企画部・オンライン部・警備部・環境部)が協力して芸術祭をつくりあげています。

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